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情報探索プロセスのモデルについて: 「情報検索のためのユーザインタフェース」を読んで

商品検索や推薦に対する課題感から、「情報検索のためのユーザインタフェース」を読んだ。検索という行為を分類整理した上でユーザインタフェースについて検討しているため非常に納得感があった。特に情報探索プロセスのモデルとして整理されている部分が、自分の課題に対して役立ちそうなのでまとめておく。

情報探索プロセスのモデル

この文献では、探索プロセスの代表的なモデルとして「標準的モデル」「認知モデル」「ダイナミックモデル」「ステージごとの情報探索」「戦略プロセスとしての情報探索」「意味形成」の6つを紹介している。それぞれのモデルの関係は以下のようになると思う。

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以下、簡単に各モデルの概要を述べる

情報探索の標準的モデル

情報探索のプロセスを「情報要求の特定」「クエリ指定」「結果の精査」「クエリ修正」と言ったインタラクションのサイクルであるとみなす。 研究者によってインタラクションの定義は様々だが、これらが元となる情報要求を満たすまで繰り返し、クエリを精緻化するという基礎的仮説に立つ

情報探索の認知モデル

標準的モデルを(Norman, 1988)の一般タスク性能の影響モデルを用いて認知的な側面から説明する。

ダイナミックモデル(ベリー採集モデル)

標準的モデルの元となる情報要求を満たすまでという基礎的仮説に対し、検索者のインタラクションの継続に伴い情報要求そのものが変化するという観察的研究から得られた発見に基づく立場に立つ。 ベリー採集モデルは(Bates, 1989)、検索プロセスの進行に伴い、情報要求とクエリが連続的に変化する、そして情報要求は連続した選択と過程で得られる断片的情報によって満たされるとした。

ステージごとの情報探索

情報プロセスの継続の中で、情報プロセスがどのように発達するかを検証する。(Kuhkthau, 1991)の研究では複雑な情報探索タスクを対象として、検索プロセスが、開始、選択、探索、作成、収集、プレゼンテーションと言ったステージを経ること、そしてそれぞれのステージにおける感情的パターンがあることを見出した。

後段のステージは収集した情報を解釈整理しているフェーズとも取れるので図では中間に位置付けてみた。

戦略プロセスとしての情報探索

検索プロセスを戦略の選択として捉える。

(Bates)は戦略を方策の集まりであると定義する。方策は、クエリ語の修正や具体化、情報構造を辿ると言った検索行為と結果に対する方策と、モニタリングと呼ばれる現状の把握があるとした。モニタリングはコスト利益分析や目標との隔たり評価などを通して戦略の切り替えもしくは検索の停止などを行う。

モニタリング方策は詳細に研究され(O’Day, Jeffries, 1993, Russellら, 1993)、有用性に基づく戦略の判断が行われているとした。(Pirolli, Card, 1999)による情報採餌理論は食糧採集のメカニズムを転用した情報探索、発見、消費といったタスクに転用することで、検索と閲覧のコストに対して価値ある情報比率を最大化するように戦略を発達させるとした。

また、共通する検索戦略として、(Marchionini, 1995, Bates, 1990)は検索者が、完璧なクエリではなく、不確かなクエリを発行し、興味ある情報に接近することを繰り返す。(O’Day, Jeffries, 1993)はオリエンテーリングと呼びこれを説明した。 この行為は心理学でアンカーリングと呼ばれる、初期のクエリを捨てられないといった大胆な調整が行えない状況も招く(Hertzum, Frokjaer, 1996)

意味形成: より大きなプロセスの一部としての検索

情報アクセスのプロセスは大きく、検索とブラウジングを行う情報検索と、情報結果の分析と統合を行う二つのコンポーネントに分割できる。これは意味形成というプロセスと呼ばれる。(Russellら, 1993) すなわち意味形成は、大量の情報を検索、解釈を繰り返しながら概念表象を形式化していくプロセスである。検索がこのプロセスの一部であることを意識した上で、解釈を支援することが求められるとした。


まとめ

この文献では、検索システムを利用するユーザーの行動や認知を詳細に分類し、情報探索モデルとしてまとめた。通常、検索システム側の観点から議論してしまいがちだが、両面からの観点が重要であることがわかる。

システム側では、情報要求がダイナミックに変更していくとすると、状況に応じて求められる検索結果も変わると考えられる。すなわち、情報要求が現在どの状況にあるか把握し、それらに応じた結果の提示、そして評価の結果、柔軟に探索を軌道修正できるような仕組みが求められるだろう。文献ではユーザインタフェースの観点からこれらの取り組みに関する先行研究も紹介されている。

ただし、情報要求は多種多様であり、先行研究が前提としている要求と自身の課題の要求分類が合致するか加味しながら参考にしなければならない。この辺りは、実際に適用、評価の中で見出していきたい。

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