THINKING MEGANE

社会人大学院生の七転び八起き国際会議奮闘記

2023年10月に初めてのアカデミックな国際会議での発表を終えました。 社会人博士課程に進学後、2021年5月の初投稿から丸2年、7回目の挑戦にしてようやくの採択ということで、自慢できるものではないのですが、同様に博士課程において日々挑戦している方々に何かの参考になればと思い、まとめておきます。

略歴と背景

2017年からペパボ研究所で研究開発職に従事しています。 情報システムの自律適応等の研究に取り組み、2020年10月に社会人博士課程に進学しました。 博士課程では、多様かつ継続的に変化する環境に適応する実用的な情報システムの実現に向けて、多腕バンディット方策を用いる機構の研究を進めています。

修士を飛ばした進学であったこともあり、進学時の実績としては国内ジャーナル論文1本のみでしたので、博士号取得に向けてはジャーナル論文をもう1本と、水準を満たす国際会議での採択1本を目指しての挑戦となりました。

年表

以下に挑戦した国際会議とその結果について時系列にまとめました。

RecSys2021 (Reject)

2021/05投稿。 提案手法において変化する環境への適応能力を向上させるべく進学後に試行錯誤した結果をまとめたものを投稿。

2021/07不採択通知。 Review結果は5点中、1点4点2点2点2点と散々でした。 総評としてはアイディアやアプローチの萌芽は理解できるが、それらを納得させるような位置付けや妥当性の説明が不十分であるというもの。 この時点では、国際会議に向けての集中的サーベイや、初めての英語論文を書き上げるのに精一杯で、論文としてまだ議論の土台に立てていなかったと思います。

WSDM2022 (Reject)

2021/08投稿。 前回のRecSys2021の指摘事項を踏まえ、記述を見直して投稿。 当初は前回投稿に対するレビュアーからの指摘事項を個別に反映しただけでしたが、指導教官より、研究の位置付けが明確になるよう全体を通した見直しはどうですかとアドバイスをいただき、導入や関連研究を中心に大幅にリライトして投稿。

2021/10不採択通知。 Review結果は、Weak rejectが3名、Rejectが1名でまだまだ採択には遠かったです。 それでも、総評には、サーベイの充実度や記述の了解性に対する前向きなコメントが多く、前進が感じられました。 なお、分野のexpertからは、提案の新規性や理論的な裏付け、もう一歩踏み込んだ評価の必要性などが指摘されています。

SAC2022 RS Track (Reject)

2021/10投稿。 前回のWSDM2022の指摘のうち、提案手法を維持したまま対応できる部分を記述面で更新して投稿。

2021/12不採択通知。 Review結果は、スコアが明記されていないもののReject寄りのコメントが2名、Accept寄りのコメントが1名でした。 採択に多少は近づいたように感じられるものの、総評としては前回とほぼ同様であり、次の提案方式の検討も進んでいたことから、この方式での国際会議への挑戦はここで一旦終えています。

なお、この方式については、国内の論文誌に投稿し、無事採択されました(2本目の国内ジャーナル論文の実績)。 その査読においても新規性・有用性に関しての議論は行われ、採録条件に応える中で、これらを向上させることができたと思います。

CIKM2022 (Reject)

2022/05投稿。 提案手法において変化する環境への適応能力とオンライン性能を両立させるための方式を検討したものを投稿。 先んじて国内研究会で途中経過をまとめる機会があったこと、前年の執筆経験が蓄積されていることもあり、同様に新規書き下ろしであったRecSys2021の時よりも短い期間で投稿できました。

2022/08不採択通知。 Review結果は、Weak rejectが1名、Weak acceptが2名で、メタの判断によっては採択されていたかもしれず、惜しいと感じました。 総評は、研究の位置付けやアプローチの妥当性、記述の了解性に対しては一定の水準を満たすものの、手法の有効性を示すための評価方法の改善を求める指摘が多くありました。 前年と比べて手法自体の新規性の観点では認められつつあるなと感じるものの、その有用性を示すための工夫をどうするべきか考えあぐねていた時期だったと思います。

AAMAS2023 (Reject)

2022/10投稿。 前回のCIKM2022の通知を待つ間に、提案手法に関連するサーベイが進んだこともあり、位置付けの補強を兼ねて、それらを盛り込み、イントロダクションと関連研究を中心にリライトして投稿。

2023/01不採択通知。 Review結果は、Weak paperが1名、Decent paperが2名。 総評としては、やや厳し目で、了解性や位置付けに関する指摘が再発してしまいました。 おそらく追加的なサーベイを自身で消化しきれておらず、結果的に解決したい課題に対して不要に広い議論となってしまったのではないかと考えています。 また、前回の有用性をどう示すかという指摘についても、具体的な解決策を検討できないまま、記述で頑張ろうとしてしまったのも不明瞭になった遠因かもしれません。

この時期は、なかなか国際会議に採択されないため、博論執筆に向けた実績を満たせないことに対する焦りが募っていきました。

PAKDD2023 (Reject)

2022/12投稿。 AAMAS2023への投稿と並行して、提案手法のもう一つの要素技術についてコンセプト的な実装と評価を進めていたものを投稿。

2023/02不採択通知。 Review結果は、Weak rejectが2名、Weak acceptが2名でした。 総評は、課題と提案の位置付けや妥当性は納得できるものの、提案の新規性に関する疑問があるとのことで、課題に対する提案手法の検討の甘さが見透かされたように思えます。

SMC2023 (Accept!)

2023/04投稿。 研究としてはAAMAS2023の手法とPAKDD2023の手法が二つ並行している状態でしたが、まずは提案として完成しているAAMAS2023の手法を着地させるべく投稿。 一度、PAKDD2023の研究で離れたことが功を奏したのか、改めて関連文献を読み込む機会を通して知識の再整理が進み、提案手法の課題設定と採用するアプローチにおいて無理なく接続できるような定式化と説明ができたと喜んだ記憶があります。 また、執筆中に最新のサーベイで類似手法が見つかって焦る場面もありましたが、提案手法との差異を検討する中で結果的に提案の新規性の主張が明確にできたのでよかったです。

2023/06採択通知。 Review結果は、スコアが明記されていないもののAccept寄りのコメントが3名、Reject寄りのコメントが1名でした。 総評では、研究や提案の位置付け、記述の明快さなどについて前向きなコメントがあり、新規性の多寡についての議論も若干ありました。 一方で、有用性や評価に関する不足のコメントがほぼ見られなかったのは興味深かったです。 これは定式化を進め、課題設定や解決する部分についての曖昧性が減少したことで、最小限の記述で過不足ない評価内容について、査読者と認識を揃えることができたためではないかと考えています。 この論文の執筆を通して、改めて、査読者のコメントを局所的に解釈するのではなく、その疑問が発生する根本について対局的にみて解決していくことの重要性を感じました。 これは2度目のWSDM2022への投稿時に指導教官からのアドバイスそのものであり、ようやく自分のものとすることができた時だったのかなと思えます。

まとめ

国際会議への長い挑戦を通して、研究を世界的な基準で議論できる水準まで押し上げていくのは一朝一夕にできるものではないのだなあと感じました。 自分の場合は、自身の研究の発展はもちろんのこと、研究を推し進めていく力を高めたいと考え、博士後期課程へ挑戦したこともあり、研究自体と研究力を同時に前進させる必要があり、特に時間がかかってしまっているのだろうと思います。 すぐ成果が出るものではないと頭では分かっているつもりでしたが、やはり2年間全く結果が出なかったというのは心理的な負担が大きかったです。 特に、研究開発員として、事業への貢献も求められる中、不採択による論文執筆期間の延長は、各種施策のスケジュールにも影響するため、とても心苦しい思いをしました。

そのような中でも、最初の国際会議の採択に漕ぎ着けることができたのは、ひとえに指導教官、研究所の仲間、そして会社の皆様の支援のおかげだと考えています。 本当にありがとうございます。

最後に、自分にとって研究は「自分の思い描く世界に至るための過程」であり、そのためには問題に向き合い続けることが大切だと考えています。 問題に向き合い続けるには、行き詰まらないよう多面的に見ることが重要です。 とは言え、博士課程の進学前は、多面的にあれこれ手を出すことはできていたものの、どこかでやりきれなかったり発散してしまっていたように思えます。 しかし、博士課程の進学後は、指導教官からの指導の中で、絶対に止まらない方法、収束させる方法というのを体得できているように感じます。 それは例えば、「難しいものと認識した上でそれに挑戦する喜び」であったり「ダメだった場合は改善してただ次に行くだけ」であったり、「自分で決めて悔いのないように進む」こと、そして「結果に対して本質的な面白さを見出して言語化し、これまでの取り組みと有機的に関連づけていくこと」などです。 これらはつまり、研究という最短ルートはない道程において、同じ道を回ることなく、常に何かしらの前進という成果を得るための能力です。 現在は、2回目の国際会議に向けてPAKDD2023に挑戦した時の手法を一層発展させたものを投稿中です。 この論文の取り組みは、国際会議の実績を得た後に更に取り組んだもので、継続的な研究が常態となったことを示すものなのかなと思っています。

来年はおそらく博論に着手できる状態ですので、4年目に突入してしまいましたが博士号を確実に取得できるよう精一杯頑張ります。 そして、このように時間をかけて体得してきた研究と研究力の、支えてくれた皆様への還元を始めていきたいです。

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